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ロッキーは不滅です [AtBL再録1]

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 北米帝国バイセンテニアルの優等生ヒーローたるロッキー・バルボアが登場して、早いもので六年、ついに第三部完結篇まで出来上がりましたが、何か御感想は?
 結構なことです。
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 ハルク・ホーガンとのチャリティ試合や、二度にわたる怪物挑戦者ミスター・Tとの死闘など見せ場たっぷりですね。シリーズ最高作と折紙つけてあげたいくらいですか?
 何、見せ場が充実した分、ドラマが希薄になった、と月並みなことをいう他ないですな。今時、青年や娘たちの汗ばんだ臀部と感動の分泌物で、日頃がらがらの映画館がむんむんしているのだから結構ではありませんか。

 そういえば、第一作の時も、あなたは後から便乗企画でつくられた日本映画『ボクサー』のほうに点を甘くしていましたね。やはりこの三部作の期間に『レイジング・ブル』のような名作もはさまれていますな。この映画の影響というか、直接的でなくても、インパクトはかなりなものだと思われませんでしたか?

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 『ロッキー』は基本的には、ショーマンつまりボクシング芸人のドラマなのです。それに較べて、スコセッシとデ・ニーロが突き出そうとしたのは、又々月並みないい方ですが、人間のドラマなのです。一人のファイターを形成する要素の全体性の亀裂について目を向けたつくり方なのです。

 このボクたちの至高の愛を見てくれ、愛こそ不可能を可能とするものだというロッキー・テーゼ「その一」が、安逸だという意味ですか?
 要するに明日のジョーが明日をかちとってしまった話なのですから。オヨヨ大統領の登場人物ではないが「昨日のジョー」なのです。もともとハングリーな人間などではないのです。観客の歓呼の中にしか存在しない虚像なのです。
 そういえば今度の映画では、フィラデルフィア市民によるロッキーの銅像まで完成しますな。成功とは素晴らしいという口ッキー・テーゼ「その二」の即物化だといえませんか。誇りととまどいをもってこの像の完成を見るヒーローの表情は、バカ面というしかありませんが、怪物挑戦者に完敗し、トレーナーのミックの死にも直面する、失意の底で、この像を見上げ、ものをぶつける場面は、良いものではなかったですか?
 何、あれは、銅像よだらしのないボクを許せ、とザンゲしていただけでしょう。ドリアン・グレイの人格分裂の危機のような対話が成立したわけではないのです。銅像のほうが確実にチャンピオンより偉いのです。彫り刻んだベルトは外すことができませんからね。これは映画に対するスタローンの従属関係をはっきり示しか場面だと思いました。

 セルロイドの英雄ロッキーが商標として称揚されるだけということですか?
 マディソン・スクエア・ガーデンの選手権試合をうめるロッキー・コールとは、ハングリ・スポーツを一つのショーとして捉える作者の姿勢そのものです。スタローンをかこむファミリーは、彼に帰属するデクノボーにますます成り下るだけなのです。かれらはとりまきでしかなくなるのです。成功でかちえたプール付きの大邸宅同様なのです。宿敵アポロがどん底のかれにトレーナーの役を買って出る過程もずいぶんきれいごとです。すべてヒーローのために功利化されてしまうのですから。

 アポロは、強いパンチだけが取り得の動きの鈍い左利きボクサーを、世界最強の男に改造してゆくわけですね。限りなき挑戦というロッキー・テーゼ「その三」は、おなじみのテーマ曲をバックに躍動的に場面化されてゆきます。それがクライマックスの再挑戦試合にまで一気につながってゆくわけですね。仲々の職人仕事ではありませんか。
 ちがいますね。わたしはこれを見ながらロバート・ロッセンの『オール・ザ・キングス・メン』を想い出しました。
 ルイジアナのヒットラーと呼ばれた煽動政治家ヒューイ・ロングをモデルにした映画ですね。

 すべてロッキーの民ではありませんか。そしてショーの観客はバカだと作者は思っているのですね。

 去年のオスカーを『レイジング・ブル』のデ・ニーロが受賞したとき、受賞式にレーガンのスピーチの録画が流れ、大統領は映画(フィルム)は不滅です、ただしわたしの主演になるものは別ですが、と語りましたが、その言葉は、前日が例の狙撃事件だったこともあり、レーガン・イズ・フォーエバーの大合唱にきこえて仕方ありませんでした。
 そうです。『ロッキーⅢ』は、ロッキーは不滅ですというロッキー・テーゼ「その四」を、完結篇に高らかに鳴らす自家撞着によって、大衆の夢の代行者たる英雄は次に体制護持のプロパガンダとなって大衆を抑圧するだろうという予感を与えました。
 虚像としての自己に従属してショーを続けるしかないわけですね。ずばり『ロッキーⅣ』の予想は?【註】

 もっと露骨な政治ショーヴィニズムになるか、原点に戻るというやつで、ロッキー・ファミリーの無名時代のグラフィティになるでしょう。でも後者の場合で商売になったにしても、スタローンに『ミーン・ストリート』はつくれませんね。
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【註】
 予想は当って四作目はつくられた。ロシア人の怪物ボクサー役でドルフ・ラングレンがデヴューした。あろうことか、現在、五作目が制作進行中であるという。
この分では次の仇役で日本人が登場する日も近いかもしれない。

 「日本読書新聞」1982年7月26日号

 更に
 『ロッキーⅤ 最後のドラマ』1990年
 『ロッキー・ザ・ファイナル』2006年

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 更に更に

 三〇年後の驚きは、スタローンvsデ・ニーロの『リベンジ・マッチ』だった。話もそのまま「ロッキー」vs「レイジング・ブル」の遺恨試合。二匹のオスにサンドイッチされたキム・ベイシンガーの衰えた容色も気の毒だった。
 「13日の金曜日」のジェイソンと「エルム街」のフレディが激突するホラーよりもホラーっぽい。70歳になっても、フル・スロットルのアクション俳優か。
 背景は、四角いリングよりも、温泉のほうが良さそうで。
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