一九八八年度ベストテン&ワーストテン [AtBL再録2]
一九八八年度ベストテン&ワーストテン
どこへ行く文革下放体験 〈外国映画ベストテン〉
①良き戦い-スペイン戦争のエイブラハム・リンカン旅団(ノエル・ブルックナー、メアリー・ドアー、サム・シリス)
②紅いコーリャン(張芸謀)
③メイトワン(ジョン・セイルズ)
④天山回廊(ツィー・シャオミン)
⑤秋天的童話(メイベル・チャン)
⑥恐怖分子(楊徳昌)
⑦マニラ 光る爪(リノ・ブロッカ)
⑧錆びた黄金(ニコラス・ローグ)
⑨晩鐘(呉子牛)
⑩ビッグバッドママ2(ロジャー・コーマン)
〈ワースト〉
①フルメタルジャケット(スタンリー・キューブリック)
②グッドモーニング・ベトナム(バリー・レヴィンソン)
③ラスト・エンペラー(ベルナルド・ベルトリッチ)
『良き戦い〈グッド・ファイト〉』は「20世紀のドキュメンタリー、パートⅢ」で見た。近来まれな勇気を与えられる映画である。わたしは不明にも、これを見て初めてアメリカ合衆国の左翼に信頼と尊敬の念をもった次第である。かれらはリンカーン旅団の復員兵士ではない。死ぬまで現役の戦線に立っている兵士なのだ。
先日、F氏と会ったさい、この映画の話をしていたところ、氏は国際旅団解散五十周年記念集会に参加した旅団兵士とバルセロナで出会った感動を語り、そこで話ががぜんスウィングしてしまったことだった。何度でも何度でもみたい映画である。
『紅いコーリャン』は八九年度公開になるが、話題にひかれて試写会でみてしまったので、ここに入れてしまう。圧倒的なパワーの映像美、と感心する他ない。これだけ原色の赤に目をやきつけられては、当分、レッド・チャイナの悪口をいう気にはなれないでしょうな。気になるのはこのパワーの行方。第五世代に共通の文革下放体験、そして映像表現がやがてどういう思想に求心してゆくか、若干、怖れと危惧を感じないわけでもないのだ。
『メイトワン』と『天山回廊』に関しては、いうまでもないだろう。ステキだ。
『秋天的童話』もまた一種のポスト文革映画だろう。第一作『非法移民』から三部作をつくるとのこと。だから当該作は番外篇のようだ。チョウ・ユンファのコメディ演技がよくはまっている。「アジア映画の新しい波」でみた。次も同じ。
『恐怖分子』は台湾にもクロサワがいると思った。もちろん「清」のほうだ。
『マニラ 光る爪』は山形県大蔵村でのフィリピン映画祭でみた。十一本のうち一等わかりやすい、というか問題意識をうけとめやすい作品だったと感じた。都会に出てきた若者たちの無残な崩壊が何よりも切実なテーマであるという現実にうたれる。
『錆びた黄金』は未公開作のヴィデオ。映画館に足を運ぶかわりにレンタル屋に通いつめるアリバイになる一本。
『晩鐘』は、「中国映画祭88」の六本から選んだ。旧日本車に対する少しばかり幻想的な視点をもつことで『紅いコーリャン』に共通する。どちらにしたって日本人にとっては愉快な映像ではない。不快な脂汗につつまれずにはみることができない。
集団自決を約した一小隊が『荒城の月』を合唱するシーンは忘れがたく哀切であり、そうしたリアリティの希薄をいういぜんに、歴史の重みをつきつけられてしまい、息苦しく見続けねばならなかった。
『ビッグバッドママ2』はひいきのおまけ。むしろほとんど『ビッグバッド・グランマ』だったな。
ワーストが三つしかなく不満だが、我慢しよう。
みたことを治したい! 〈日本映画ベストテン〉
①追悼のざわめき
〈ワースト〉 ①追悼のざわめき
『追悼のざわめき』一本にて、ベストとワーストにあてる。
理由その一は、この作品じたいに発している。この映画をみた感想を一言でいえば、およそおぞましさの限界をはるかに越えているということだ。二度とみたくはないし、それ以上に、みたことの記憶を消し去ってしまいたい感情にすらとらわれる。
と同時に、多くの部分の稚拙さを残しながら、これほどの質量をたくわえた日本映画に他には出会わなかったことも確かなのだ。
理由その二は、かなり積極的に日本映画を量的にみていないのである。引導を渡す、というほど大それてはいない。けれどもそのうち、極めて自然に、一本もみないですます結果に終る、という時期がくるような予感がある。
「映画芸術」357号、1989年3月
コメント 0