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 『アクロス・ザ・ボーダーライン』あとがき [AtBL再録2]

あとがき

 テレビドラマとしてつくられた『ダブル・パニック90 ロス警察大捜査線!』(十月十四日放送)を観ながら、複雑な感慨にとらわれずにはおれなかった。ここにはアクション・ドラマの普通の水準(本文でふれたVオリ作品と同じく)が展開されていた。
 わたしがすでに劇場用の日本映画からは見切りをつけてしまった水準が、である。
 脚本は佐藤純弥、監督は深作欣二、共にいい仕事をしている。共にわたしがここ数年来、観ることを忌避してきた作家たちだ。しかしこれはやはりテレビドラマであり、出てくる俳優たちはほとんどがタレントだったのだが。
 テーマは、ロスの日本企業をまきこむヴィヴィットな犯罪をとりあげ、今日、国際社会の孤児として全世界に無防備に散らばっている、日本人ゲストたちの危険さを訴えているようでもある。
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 こうした作品に映画館で出会うことはもはやできないのか。
 尨大な予算、尨大な広告費投入というシステムによる大作主義路線においてはつくりえない企画なのだろうか。観る前から下らなさの見当が大抵ついてしまう大作には背をむければよい。
 大作主義がつくらなければ、何らかの形で、切実なテーマは担われていくに違いない。しかし、わたしにはテレビドラマを観る習慣がほとんど絶無なので、こうした傾向をフォローしていくことは、まあ無理だろう。
 いずれにせよ、くりかえしいってきたように、映画幼年期の終りははるか昔に完了したのだから、退行のできない歴史環境にからめとられているのみなのだ。作品の断片、断片的な作品、という水準なら、高度に発達した映画先進国は誇るべきものばかりに恵まれているだろう。
 発現がもしCFジャンルにばかりみられるという状態であっても。

 つい最近だったか、わたしは個人映画という領域に全く興味を喪って久しいことに気付き、愕然としたのだった。ただ、完全な映画作品という形では、映画先進国においてはもはや人の心に訴えるものをつくりえないシステムが現前化してきているのではないか、ますますその確信を強くする。

 たまたまこれは、わたしの最初の評論集であり、映画論集である。寄せ集めてみると、以上の分量と相なった。機会を与えられて書いたものばかりである。書き下ろしの分については幸運にも、現在公開申のものを対象にすることができた。機会を与えて頂いた諸氏に感謝する。
 とりわけ『日本読書新聞』と小川徹氏の『映画芸術』に、その終幕に立ち会わせていただいたことも含め、感謝する。


 ――などと書いたのが昨年の十月二十一日だ。
 とにかく公開(ではない)、刊行が遅れた。あいすまぬ。写真をいれたサービスの分だけ制作が大変だった。
 『桑の葉』はヴィデオ・リリース、『ダブル・八二ック90』は知らないうちにレンタルが始まっている。なんというか、しばらく前の臨場感のあとがきだが、そのまま残し、少し書き足そう。「日本人ゲスト」という用語などすでにもうわからない。湾岸戦争前夜において日本人が人質になっていた状態の、その人質をさした。
 戦争は始まってしまった。現在は戦時である。期せずして戦前の空気を伝える文章を残した。

 わたしは最後までアメリカの開戦に懐疑的だったが、そのことは別にして、アメリカの開戦が日本の開戦であるにもかかわらず、現在という戦時に認識的にも感覚的に慣れることができない。
 1991・01・16の空爆は情報戦としての最大の効果をもったかもしれない。
 だが結局のところ、廃棄処分にするべき爆弾の投棄場所がたまたま〈気狂いフセイン〉のイラクに特定されただけではないのか、という疑問が「観客」の胸にわいてくるまで一週間もかかっていない。一週間(それ以上も)無為にアメリカは戦略爆撃を行ったのだが、それは軍産複合体にとっては絶対の必要だったのだろう。

 われわれが支払うことを強制されている戦費は「ゴミ投棄」のためのものなのか? それにしても何という奇妙な戦争なのだ。何という奇妙な戦争に加担してしまっているのだ。
 ただただ天文学的にふくれあがるハイテク兵機の戦費支払いを迫まられるだけの戦争。そして更に、この戦争はかつてのアジアの局地戦がそうだったようには経済特需をもたらさないことが明瞭であるらしい。
 まぎれもなくわれわれの戦争であるにもかかわらず、われわれはこれを闘うことはないのだ。
 すでに平和も戦争もその自明の意味を喪って久しいにしろ、この不条理感のみが戦時の意識であるとは、何たる日本帝国主義の現段階なのだ。

1991年4月 『アクロス・ザ・ボーダーライン』あとがき
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