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キアヌ&たけし『JM』 [afterAtBL]

 映画『ブレードランナー』からサイバーパンク映画が始まったとすれば、ちょうど一周してブーメランのように戻ってきたのが、この映画だ。
 シド・ミードによる未来都市の模型、そして原作者ウィリアム・ギブスン自身によるシナリオと、道具立てはそろった。サイバーパンク・シティで遊ぶスーパー・ファミコン・ゲーム感覚のヴィジュアル・インターメディア的ノンストップ・アクションに仕上がった。

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 筋立てがハリウッド風お子様ランチで忙しいのは致し方ないか。
 未来がこうなるとは思わないが、映画の未来像は確実にこの方向が一つと納得させられる。

 流行のインターネット世界を未来の人類が自在にはねまわり、あるいは翻弄される様子を見物するのは、楽しい。そしてたいへんに疲れる。
 コンピュータ・グラフィックスの絢爛豪華さに較べて、未来都市の背景はいかにも暗い。遠景はハイテク・タワービルの林立だが、町並みはスラムばかりが目について困った。スラムの帝王を演ずるのがアイス・Tだから余計にそう見えたのか。
 世界の富を集中して支配に君臨する多国籍企業をニッポンやくざが軍事的に防衛する未来の構図。ソニーウォークマンから電脳ソケット人間のイメージを発明したギブスンのオリエンタリズムからすると自然な構図であるだろう。
 しかし、これが「なんでこうなっちゃうの」という倒立の構図であることは否定できない。現状は、というか大方のアメリカ映画の現状認識は、これの逆ではないのか。ここが気になると全体が楽しめなくなる。軍事面では防衛はもっぱらアメリカの専門になっていて、こちらは資金源に徹しているのだから。
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 サイバースペースの描出は目を見張るものがある。これに対して、人類を滅ぼす奇病NASがよく伝わってこない。ちっとも怖そうでない。ハイテク・メディア社会が宿痾としてもつ神経麻痺ということだが、この恐ろしさが伝わらなくて、全体のドラマがぱっとしないのだ。どうもこれは映像向きの観念ではないのかもしれない。それともサイバーパンクが本質的に未来に対してはいつも楽観的なせいだろうか。
 ボーダーレスの豪華キャストを固めたが、気の毒なことに、みんなCG映像の引き立て役にとどまっている。ドルフ・ラングレンもアイス・Tも、いやになるほど生彩がない。ビートたけしだけが辛うじて儲け役。


『ミュージックマガジン」1995.5

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