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ジャームッシュ&デップ『デッドマン』 [afterAtBL]

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  求道の映画だ。
 表向きは西部劇、そしてその時代を借りたロード・ムーヴィだろう。

  だが、この旅は、逃亡ともさすらいとも違う。魂が帰属するところを求める飽くなき探求だ。ジャームッシュの映画でも最も倫理的でテーマの鮮明な作品だろう。

  話は、未知の土地に迷い込んで来た白人の受難を基調にしている。胸に銃弾を撃ち込まれ、生死の境をさ迷うデッドマンとなる。おまけにおたずね者として賞金稼ぎから追われる身となる。かれを助けるのは白馬に乗ったインディアン、自らノーボディと名乗る。ジョニー・デップとゲーリー・ファーマーの奇妙なコンビ。

 意図するところは明らかだ。これは、白馬に跨り、インディアンの従者トントを従えたヒーロー「ローン・レンジャー」を逆立ちさせた物語なのだ。
 原住民はここでは教育者であり、愚かな白人を従え、魂の摂理を説いてきかせてやる。デッドマンは賢くなっていく。迫る追っ手を次々と撃ち殺し、教訓をつくっていく。「死んだ白人だけが善い白人だ」とでもいうように。

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  だがここにホワイト・アメリカの自己否定の厳格なメッセージがあるわけではない。モノクロで語られた映像詩であり、ニール・ヤングの音楽がぴったりと似合う小品だ。往年のヒット曲「ハート・オブ・ゴールド」がバックに流れているような。

  汽車で西部にやってきた白人男は、胸に銃弾を残したまま、まだら馬に乗って逃げる。途中、撃たれた子鹿の死骸に出会う。傍らに身を投げ出し、まだ自分の胸から流れている血を交わらせ、大地を感じ取った。
 一方、追う側は、黒ずくめの寡黙な殺し屋ランス・ヘンリクセン――もちろん『シェーン』のジャック・パランスのイミテーションだ――が唯一、勝ち残ってくる。かれは死体の頭をカボチャのように踏み潰し、殺した男の腕をスペア・リヴにして喰らい、どこまでもどこまでも追ってくる。

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  アメリカの闇の奥への旅は、馬を捨て、カヌーによる河下りに移る。主を失い、河岸を追ってくるまだら馬を船上から捉えるショットは、この映画でも無類に美しいシーンの一つだ。
 どこまでも終わらないかにみえるかれらの旅は、カヌーが海へと漕ぎ出して行くところで終わる。ジャームッシュの求道が、初めてここに結実したのなら、これは信ずるに価する。

『ミュージックマガジン』1996.1

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