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Straight Outta Compton [BlackCinema]

 《週末の全米映画興行成績は、 N.W.A 伝記ドラマ「Straight Outta Compton」が興収1324万ドル(約16億円)でV3を達成した。》
 All Cinema Onlin のニュース(8.31)から。
http://www.allcinema.net/prog/news.php?lPageNum=2&lDataCount=9401


 このニュースに興奮した。
 ことわっておくが、この数字は、「Straight Outta Compton」が、『ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション』や『ジュラシック・ワールド』などの巨額の宣伝費を投じたハリウッド超大作を制し、それらをはるかに上回る観客動員数を記録したことを意味する。

 だが、日本での公開は未定らしい。日本には、アメリカ本土のように「黒人観客層」が存在しないからな。量的にも質的にも。
 日本でも公開せよ、という応援サイトもあって、日本語字幕つきの予告篇を視聴できる。
https://www.change.org/p/%E6%98%A0%E7%94%BB-straight-outta-compton-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E3%81%AE%E5%8A%87%E5%A0%B4%E5%85%AC%E9%96%8B%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8B

 映画は、現在のアイス・キューブ(映画俳優)とドクタ・ドレー(音楽プロデューサー)がコンプトンのストリートを再訪するところからはじまる。イージー・Eはすでに故人だ。
 ドラマでキューブ役に扮するのは、彼の息子。やはり、そっくりだ。
 N.W.A  Niggaz wit Atittudes(根性ワルの黒ん坊)――(註1)
 劇中、「おれたちがファック・ダ・ポリスを歌った時代(25年前)とおれたちニガズの状況はまったく変わっていない」という科白が語られる。これが、この映画の(支持される理由も含めて)すべてを表わしている、といっても過言ではない。
 建て前は民主主義、黒人にたいしては警察国家、対外的には(非対称的)戦争国家。これがアメリカだ。
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 N.W.A、パブリック・エナミー、ブギダウン・プロダクションズなどの、ギャングスタ・ラップが出現した80年代の後半。HIPHOP はワールド・ミュージックを席巻し、その勢いは、もちろん、音楽シーンのみにとどまらなかった。
 ブラックシネマの秀作が次つぎと制作され、その多くは日本でも公開された。90年代、ほとんど東京の映画館で観ることができた。

 それらは過去のものになったのだろうか。

 ブラックシネマを観つづけた日々。
 このブログでも、当時の日誌を順次アップしていく予定だが、もう少し後のことになりそうだ。

 「Straight Outta Compton」 
 N.W.Aの短い活動、パブリック・エナミー、ブギダウン・プロダクションズのクリス・ワン。ドレーの立ち上げたデス・ロウ・レコード……。その延長にあった、2PACとビギー・スモールの銃撃死。(註4)
 それらは「伝説」に祭り上げられるのだろうか。
 早すぎる伝記映画の試みは退行的な「懐古趣味」におちこむのだろうか。
 ――その点は、「Straight Outta Compton」本篇を観とどけてみないと確定できない。



(註1)「ニガー」「黒んぼ」などの〈差別語〉は、この場合、プラスマイナスの両義性をおびている。この深淵と跳躍を理解できるか否か。――(註2)
 黒人自身は、これを自分への尊厳をあらわす用語としても、本来の意味の侮蔑語としても、適宜、使い分けている。

(註2)このあたりに、黒人英語の翻訳不可能性という問題があるのに違いない。たとえば、よく使われる二重否定の構文にしても、直訳すると、否定をとおして肯定を語る(否定を介してしか肯定を伝えることができない)という黒人文化の基底的なニュアンスが抜け落ちてしまう。
 日本語は、そうした断絶を反映する語法を必要としてこなかったからだ。一部の在日朝鮮人作家の文体を数少ない例外として――。
 数年前、ドナルド・ゴインズ(註3)の『ブラック・デトロイト』が翻訳されたさいにも、この問題が発生した。むろん翻訳が悪いとかいうことではない。訳者は今は直木賞作家になっている東山彰良。この時、ゴインズに注目したセンスに感動した。
 しかし、日経の書評欄で★★★★★の絶賛があった他は、まったく話題にならず消えてしまった。

(註3)ゴインズは元ギャングスタの犯罪小説作家。服役後、70年代に短い作家活動のさなかに射殺された。HIPHOPカルチャーのヒーローとして、その作品は長く支持されつづけている。

(註4)ドキュメント・フィルム『ライム&リーズン』だったと思うが、インタビューで、キング牧師についてのコメントを求められたドレーが一瞬浮かべた嘲りの表情が印象的だった。「キング牧師がおれたちのラップを聴いたらどう思うかだって?」
 ドレーが一瞬浮かべた表情には、はっきりと「バカなことを訊くなよ。質問者は本当におれたちの歌をわかってるのか」という感情がほとばしっていた。しかし、すぐにドレーは老獪な商売人の仮面で本心を覆いかくし、実にあたりさわりのない公式発言を答えるのだった。「そうだな、キング牧師も、おれたちの歌を気に入ってくれただろうな。彼の死が残念でならないよ」と。


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