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行ってきました『ボブ・ディランの頭のなか』の試写会 [afterAtBL]

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 行ってきました『ボブ・ディランの頭のなか』の試写会

 こんなにこんなに待ちこがれた映画は近来なかった。
  その日が待ち遠しくて待ち遠しくて、指折り数えるなんてことまで……。

 一年以上前だったんだな。この作品の話を聞いて、じっさいに観たやつの失望まじりの感想も確かめて、こりゃゼッテー日本公開はネーよなと諦めたのは。2004年1月1日の日記に、そう書いてあった。
 CDを聴いて我慢すっかとニヒルっていたんである。

 ところがところが。
 観ると聴くとでは大違いというのはこのことだ。
 タイトルがスクリーンに映ったとたんにガンときた。「アメリカの裏庭」南米某国の猥雑なスラムの映像に、ラジオ伝道師のがなり声(フレーズは明らかにディランの詩だ)がかぶさり、そして真心ブラザーズの「マイ・バック・ペイジ」が流れてくるともう、ガンガンガンときたね。
 これは――ディランズ・メイズの多国籍版ではないか。
 そして、あろうことか、映像を借りたディランの新曲なのではないか。
 嗚呼

 出所したボブ・ディランがラテンアメリカ西部劇のスタイルで、バスに乗って市内に向かうシーン。
 なぜかダシール・ハメットの短編を思い出して涙が出てきた。

 国境、グローバリゼーションと不均等発展、北と南。
 そういったテーマは映像に介入してくるだけで、もちろんそれ以上の追究はなされない。
 人は神の心を持っているが、その身体は塵芥にすぎない……すべての人類は奴隷の種族であり、始まりからそうであった……
 すべてのイメージがディラノロジカルに再編成され、ディランの迷路のような歌声に流れこんでいく。
 世界を蹂躙する覇権帝国アメリカ、そこに奉仕する裏庭の独裁小国。
 殉教者さながらに彷徨い歩くロック・シンガー。
 寓話的な物語は、例によって、何も回答らしきものを示さない。
 ラストに流れるのは、21世紀ヴァージョンの「Blowin'in the Wind」だ。
 ~~我がァ友よ、その答えは風ェーに吹かれている~~か。

 これは彼が数かぎりなく繰り返し試みてきた、自作を再解釈・再々解釈・再々々解釈するカメレオンのような変貌そのままだ。
 この男は、映画を使って新曲を発表したのだ。

 老いてますますディランの風貌は『キルビル2』のデヴィッド・キャラダイン顔にしわんでいる。
 タランティーノがやればコミックにしかならないが、ディランならジュークボックス・ランボーの再降臨になる。
 これは映画でありながら、最初のシーンから最後のシーンにいたるまで、すみからすみまでどこまでもディランの「音楽」なのだ

 キリストのような殉教者に仕立てあげられるラストの意味もそれほど深読みすることはない。
 ディランはちゃんと居心地悪そうに演じていたし、俺はただのシンガーなんだぜと言い訳することも忘れていない。



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 監督ラリー・チャールズ
 ジョン・グッドマン
 ジェシカ・ラング
 ジェフ・ブリッジス
 ペネロペ・クルス
 ルーク・ウィルソン
 アンジェラ・バセット
 ミッキー・ローク
 リチャード・サラフィアン
 スティーヴン・バウアー
 ブルース・ダーン
 エド・ハリス
 ヴァル・キルマー
 チーチ・マリン
 クリス・ペン
 クリスチャン・スレイター
 フレッド・ウォード

 物語のクライマックス、難民キャンプみたいなところで開かれるチャリティ・コンサート。
 バンドの演奏は新大統領の私兵たちによって潰される。

 なんだかわざとややこしくヒネリをきかせてあるとしか思えないストーリーを懸命に追っかけていくと――ディランの役柄は大統領の息子(!)で、瀕死の大統領宅になんども電話しかける謎めいたイメージ・シーンも挿入されるし、新大統領になる彼の双子の兄弟ミッキー・ローク(どこが双子だ?)との因縁は聖書の兄弟殺しのモチーフにもなってくるし、アンジェラ・バセットの母親(どこが?)との会話なんてよくわからない。
 詮索すればきりがないけれど、じつは大した意味もなかったりするディランズ・メイズそのものなのだ。

 話を追っていくと、こんな具合で疲れる。心配したのは、とんでものカルト・ムーヴィーっぽさだ。
 ところが、娯楽映画としてもかろうじて出来上がっているではないか。
 そこに贔屓目ではなく、感動した。あっさり白旗だ。
 ディラン、あんたは今でも凄い。
 意味の過剰は無意味で、その底にある迷路こそがメッセージだ。

 イタリア語のラップにサンプリングされた「ライク・ア・ローリングストーン」にもびっくりしたが、マーティン・スコセッシによるドキュメンタリ・フィルムのタイトルは『NO DIRECTION HOME』という。

ホームページ更新日記2005.05より


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