30年遅れの映画日誌。映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代の話。
 1983年8月27日土曜 曇り


 ニコラス・ローグ『赤い影』



 新宿

 たとえば、こないだの『時をかける少女』がそうだったけれど、ご当地ムーヴィーというのは、その場所に行きたくてたまらなくする映像パワーを放ってくる。『赤い影』は、ちょうどその逆。

 この映画を観ると、ベニスには絶対に行きたくなくなる。
 これはこれで作品の魔力なんだろう。 薄汚れた「水の都」、悪夢の幻覚に襲撃される街、赤い霧の彼方にもやっている「死滅都市」。
 ローグ・ルージュのフィルターのかかった画面に引き回された。


 サイコ・サスペンスなんて言葉はまだ普及していなかった頃。
 考えてみたら、ローグはこれを超える作品をつくっていないのでは?

 最近の『アート・オブ・エロス 監督たちの晩餐』の第一話「ホテル・パラダイス」は、じつに久方ぶりのローグ・タッチだった。

 この映画は、おかしなオムニバスで、第二話がメルヴィン・ヴァン・ピーブルズの「ブルーン・ブルーン・ブルーン」
 どうってことないヴードゥ・エロティック・ホラー。これがブラック・シネマのあの伝説の作家(黒いゴダール)の新作だと想って観ると、かぎりなく脱力した。
 『スウィート・スウィートバック』だけが奇蹟だったんだろうか。