30年遅れの映画日誌。 映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代に。

 1979年11月2日金曜
 アンジェイ・ワイダ『灰とダイヤモンド』
 新宿東映


 チブルスキーのマチェックにまた逢いたくなった。
 テロリストの無念と滑稽。暗殺も祖国への想いもすべて徒労に終わり、サングラスの奥には空洞があるばかり。
 ポーランド映画の名作は、だいたい自主上映で観てきていた。一般館での上映だと違った気分にもなる。
 マチェックに青春を重ね合わせることのできた世代はわたしよりずっと上だ。

 考えてみれば、ポーランドの戦後初期の混乱を描き、冷戦状況の只中につくられたこの映画は、前後数十年の幅で広範な影響力を持った。80年代にさしかかり、同国は「連帯」の運動によって大きく変貌を遂げようとしていた。
 ワイダもその渦中に飛びこんで『大理石の男』『鉄の男』をつくることになる。『灰とダイヤモンド』の時代は終わりを告げようとしていた。



 イェジー・アンジェイフスキーの原作は、数多くの過誤と悲劇のエピソードの集積だ。マチェックの物語はその一つを構成するにすぎないけれど、灰と瓦礫におおわれた故国を象徴する力を持った。持ちつづけた。