30年遅れの映画日誌。三年目。 映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代に。

 1981年4月6日月曜 雨

 ティント・ブラス『サロン・キティ』  新宿



 スケベ大王ブラス、何を勘違いしたか。ヴィスコンティの向こうを張ったかのような歴史ドラマじゃった。
 ヘルムート・バーガーがなにか可哀相???

 初公開はこの二年前で、タイトルも『ナチ女秘密警察/SEX親衛隊』
 洋エロ専門館配給だったから、さすがにチェックできなかった。こっちのタイトルのほうが観客も勘違いせずに済んで良かったのでは……。



 この時期のブラスはどうも評価しかねる。最近の作品のように、ただのエロ作家に徹する潔さが欠けていたのだろう。
 次作(一般公開はこちらが先)がハリウッド製史劇(ローマ皇帝役のマルコム・マクドゥエルだけは観る価値あり)のような『カリギュラ』。
 次々作が大谷崎原作の『鍵』。
 いったいどういう位置にいる作家なのか、あるいはただの山師めいた三流なのか。さっぱりわからなかった。



 今ならわかる。アメリカにラス・メイヤーがいるなら、イタリアにはティント・ブラスがいる。

 日本には? 一芸に邁進する作り手はいるか。

 画面も無数のボカシでずたずただったもんな。しまいに目がちらちらしてくるし。こうした苛苛感、焦燥感の不健康さは、体験していない人には説明しにくい。

 この手の野蛮な修正はまだまだ洋エロの世界を支配してやまないのであった。