30年遅れの映画日誌。二年目。  映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代に。

 1980年12月
 スタンリー・キューブリック『シャイニング』

 吉祥寺


 期待外れ、というのが正直なところ。
 原作の初期キング本特有の、ベビーブーマー世代の濃厚な自己形成物語なんて、キューブリック様にとってはクソ以下だったんだろうが。
 監督の内面のほうがホラーな場合、作品はアンチホラーになるってこと?


 しかし、シェリー・デュヴァルの顔は怖かったな。
 底なし沼のようにパカッとあいたムンク叫びの口。だけど本当に怖いのは、「何か」を怖がっている眼なのだ。観客にとってはちっとも恐ろしくないドラマの状況をひたすら怖がっている眼。きっと、ニコルソンを狂騒的なオーバーアクトに追いこんだ天才キュブ様の妄執が怖かったんだろうな、と思うことにした。
 ニコラス・レイ『夜の人々』のアルトマン・リメイク『ボウイ&キーチ』の印象しかなかった。顔がアップになるだけで「怖い」スターなんて絶無じゃないか。