『新・平家物語』1955年

 人生最初に観た映画作品は何だったのだろう。
 記憶は改変されたり、融解したり、変質をこうむったり、ごくあてにならない標識と化している。
 この映画は親爺に連れられて観たと想っていた。
 だが、公開日を調べると、55年の9月21日となっている。
 親爺が倒れて廃人となったのは、23日。
 とすれば、公開直後に観に行った、ということになるのだろうか。
 市川雷蔵が弓を射るラストシーンだけは、不思議と憶えている。

 映画館もどこだったのか。
 旗の台か大井町あたりと思いこんでいたけれど。
 時期からして、そうではないようだ。
 幼児期につれられた満員の映画館の記憶がごっちゃに融解して、作品の記憶に重ねられてしまったのだ。たぶん。
 そうならば、人生の最初に観たフィルムも彼方の謎だ。
 喪われた時を求めてを祈願するしかすべがない。