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『拳銃に泣くトム・ドーリー』 [西部劇・夢のかけら]

 三番目に憶えているのは『拳銃に泣くトム・ドーリー』
 モノクロの低予算B級映画。
 
これは、『リオ・ブラボー』と併映だったと思う。
 
ふつうは三本立てのところ、『リオ・ブラボー』が二時間半の長さだったので、二本立てになった。

 監督はテッド・ポスト。テレビの『コンバット』シリーズとか、『ダーティハリー2』などで知られる。
 主演はテレビ『ボナンザ』シリーズのマイケル・ランドン。その他はまったく馴染みのない顔ぶれ。
 南北戦争が終わったことを知らずに戦いつづけた兵士の話。
 戦争継続中なら英雄だが、終戦の後だから殺人者として絞首刑に処せられた。
 キングストン・トリオの主題歌の付録のような映画だ。
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 他には『イエローストーン砦』を渋谷で観た。
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 主演のクリント・ウォーカーは、2メートルの大男。
 少し後に、テレビの『シャイアン』シリーズで売りだした。
 ジョン・ラッセルとエド・バーンズもテレビ・シリーズで主役をとった。

 西部劇鑑賞が本格化したのは、京都に移って、中学から高校時代。
 偶然に西部劇映画の最盛期にあたった。
 始まりは明確で、こちらが映画を独りで観る年齢に達した時期と重なった。
 ほとんどは60年代の前半に集中している。
 リバイバル・ブームの恩恵で、名作のおおかたを観ることができた。

 けれど公開本数が格段に多い50年代のことはまったく知らない。
 選別されたヒット作のみを追う結果になり、B級作品は観ていない。
 普通の意味での愛好家の名には値しないだろう。ただ名作をうっとりと観るだけだった。
 想い出を語ることは、その頃の自分の幼い精神的軌跡と単純な憧れのありようの気恥ずかしい告白につながる。
 客観的な事柄は語れたとしても語りたくない。
 後からその能力は身についたとはいえ、それを使いたくない。
 あるいは興味がない。

 10年はあわただしく過ぎていって。
 60年代の末。
 嫌味にいえば、「卒業」は訪れた。
 おまけに60年代後半には、ごく少なくしか作品を拾えない。
 マカロニ・ウェスタンが全盛になってしまって、観る気をなくしたという要素が大きい。
 たまに観ることはあっても、あの残虐さと下品さに慣れるのは無理だった。
 例外は『プロフェッショナル』くらいだ。
 いずれにせよ、終わってしまったことを、ゆっくりと知らされていく日々が長くながく、この項目においても例外なく続いていった。

 西部劇の時代は、まったくこちらの主観だが、60年代を縦断して、およそ10年後に不徹底に終わる。何年も前に終わっていた、ということだ。
 徐々に、痛みをともなって、気づかされたわけだ。
 夢の破片が粉ごなになってしまっていることを。

 終わりの衝撃はサム・ペキンパー『ワイルドバンチ』によってもたらされる。
 その点も、後からの知恵で思い到った。マカロニ・ウェスタンはほとんど観ていない。合計しても十本くらいだろう。
 だが、『ワイルドバンチ』から、最初に受け取ったのはマカロニものの「汚い」画面への嫌悪だった。

 後先はよく憶えていないが、グラウベル・ローシャのブラジル西部劇『アントニオ・ダス・モルテス』にも揺さぶられたのだろう。
 そしてラルフ・ネルソン『ソルジャー・ブルー』の高名なラストの「インディアン虐殺シーン」が、幼い未熟な夢にトドメをさした。
 「良いインディアンは死んだインディアン」といったネイティヴ撃滅政策を正直に反映しつづけた「インディアン標的」アクションは完全に過去のものになったのだ。

 先日『トム・ホーン』をビデオで再見して、初めて観た(80年)ときのいたたまれない感情がどういうものだったか、よく納得できた。
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 スティーヴ・マックイーン
は、やはり最後の西部劇スターだったのだ。
 そのマックイーンの衰えた姿。
 そして絞首台からぶらさがるヒーローに、ここまで映すのかと、目を覆いたくなった。
 アンハッピーエンドどころか、主人公が無実の罪で死刑になる話なのだ。
 このジャンルで起こった「正義の相対化」という事態も極限にまで行った。
 実話に基づくという但し書きも嫌味で不快だった。

 細部はほとんど忘れていたが、80年ごろはまだ、破られた夢のカサブタがまだ痛んだのだろう。
 それを追体験することができた。
 そしていま平静に観れば、獄中のマックイーンが自由を夢想する場面の美しさに息をのんだ。
 これはまさにペキンパー的テーマの頑固な変奏ではないか。
 遅ればせながら思い当たる。
 喪われた夢の幻想的な回復に命を捧げる男のサガ。

 終わりを見つめることができなかった。
 長く。

2005.07 ホームページより 


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