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一九八三年度ベストテン&ワーストテン [AtBL再録2]

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悲恋映画のミーハー
〈外国映画ベストテン〉
鉛の時代(マルガレーテ・フォン・トロッタ) 
ことの次第(ヴィム・ヴェンダース) 
アギーレ・神の怒り(ヴェルナー・ヘルツォーク) 
パッション(ジャン・リュック・ゴダール) 
ジプシーは空に消える(エミーリ・ロチャヌー)
戦いの後の風景(アンジェイ・ワイダ) 
猟人日記「狼」(ロマン・バラヤン) 
天国の日々(テレンス・マリック)
スタフ王の野蛮な狩り(ワレーリー・ルビンチク) 
族譜(林権沢〈イム・グォンテク〉)

 〈ワースト〉
フィッツカラルド(ヘルツォーク)

 選んでみて気付くのは、大方がドイツ=ソビエト圏の映画となったことである。
 相いも変わらず悲恋映画に胸を開いてしまうミーハーぶりだ。
 『ジプシーは空に消える』などそのピュアな形態にまいってしまった次第だ。この点『戦いの後の風景』のような状況性の暗鬱な悲劇よりも、純粋培養されたふうの悲劇にからきし弱かった。それともこれはわたし自身の将来を予見的に投影させるような見方に引きずられてのことなのか。すでに選考理由の述べ方としては過剰にパーソナルであるが、何事かをコメントしたかった映画――『鉛の時代』『ことの次第』『アギーレ・神の怒り』『パッション』――については他の場所に書いてしまった。
 で更に映画ハジカキ評論スタイルで続けるが、わたしとしては、ジプシーの男女による変型的な心中物語に涙したことは、わたしの中にいまだこうしたエロスのくすぶりが残っていたという意味で意外な事態ですらあったのだ。
 逆かもしれない。
 《なぜ一気にものものしく年を取ってしまうことができないのか》という花田清輝の焦燥はいつもわたしのものでもある。じつにその通りなのだ。ただガキのように映画を見漁って、名前にふさわしくいつもガツガツしているだけなのだ。
 『族譜』だけは家庭内のテレビ受信機で見た。

 ワーストの『フィッツカラルド』については『アギーレ』ともども『日本読書新聞』一九八三年六月十三日号「気狂いヘルツォーク」(本書所収)に書いた。要するに侵略者の居直りスペクタクル映画なのだ。


今村昌平と大島渚
〈日本映画ベストテン〉
ションベン・ライダー(相米慎二) 
十階のモスキート(崔洋一) 
丑三つの村(田中登) 
暗室(浦山桐郎) 
キャリアガール・乱熟(和泉聖二) 
薔薇の館・男たちのパッション(東郷健) 
神田川淫乱戦争(黒沢清) 
少女暴行事件・赤い靴(上垣保則) 
オキナワの少年(新城卓)
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 〈ワースト〉
戦場のメリークリスマス(大島渚)

 巨匠たちは映画大陸の公認をかっぱらうために昇天してゆくがよいのだ。世界性の後光に輝いて帰還する作家たちの到達をわたしはむしろ歓迎する。しかしかれらにはこの在日に再び現役として戻る場所がないというだけのことだ。
 つまり今村昌平が『楢山節考』で描いたのは、自分自身の引退宣言であるに他ならない。かれが、巨匠たちの楢山であるところのカンヌ映画祭で賞を取ってしまったことで、この隠画は見事に完成した。かれと賞を争った『戦場のメリークリスマス』の作家にしても事は全く同等だ。わたしはかれらに対して、映画のセリフを借りて《お山参りはつろうござんすが、ご苦労さんでござんす》という以外の言葉をもたない。

 「戦・メリ』はメリメリだ。従来の大島作品に根気よく付き合ってきた者は当然にこれを支持するだろうが、一方、これを境に大島から離れる者もいるかもしれない。そして今まで異和感をもちながらも作品を辿ってきた者はやはり異和感で耐えがたくなる。この作で大島に始めて接した者は柔軟に貪欲にこの映画に屈服するかもしれないし、逆に全くはじきとばされるかもしれない。要するにフツーの反応を引き起す映画なのであり、わたしに関していえば、徹頭徹尾何も書く気が起らない。
 注意すべき点は次である。すべての映画作家は自作を絶対的に擁護する攻撃性において大島を見ならうべきだ。これだけは確かだ。
 なお、空位があるのは評判に登る新人――磯村一路、水谷俊之など――の作品を見る機会がなかったからだ。


特別演技賞 スヴェトラーナ・トマ
 『鉛の時代』のユタ・ランペも『丑三つの村』の原泉も『竜二』の永島暎子も各々素晴らしかったが、やはり『ジプシーは空に消える』スヴェトラーナ・トマである。添いとげられることのない悲恋に誇り高く殉ずる娘。それだけでもよろしい。
 乱舞する彼女の高慢なまなざし、泉のほとりで次々と着衣を脱ぎ捨ててゆくあどけなさ、服従を誓わせた男のその手で刺されて散ってゆく純愛が、いまだにわたしの中に残り火となっている。

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「映画芸術」347号、1984年2月


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