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ぼくらが非情の大河をくだるとき3 [AtBL再録2]

3 性の大河

 そして次の局面はこうである。日本映画の、世界に喧伝すべきゆがみとしての性表現のたちおくれ。

 性表現というよりもここでは局部表現の問題というべきであり、一層てきせつには
局部インペイ表現の問題と定立すべきである。いっかんして日本映画は局部〈オメコ・チンポ〉をなにかあるまじきものとしてインペイし続けてきたわけだが、これは当然にも輸入映画の「映っている部分」をもぬりつぶすという一貫性において貫徹され、要するに問題は、隠すことのエロチシズムという領域ではなくて、完璧にインペイ・リアリズム=帝国主義のレベルであることを露わにしているのである。
 ある映画市民は、シャン・リュック・ゴダールやアラン・タネールの作品にさえ刻印された「局部ボカシ」の官権的処置について、国辱だと身をふるわせた。

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 なるほどゴダールの『カルメンという名の女』では、部分的にボカされた場面に、ここには○○する○○○が映っているのですがお見せすることができません、といった字幕がついていたし、タネールの『ジョナスは2000年に25才になる』では、たんに背景に使われているにすぎない壁にはられた絵画の局部がシロヌキに消されていたし、これはまさに蛮行と呼ぶにふさわしく、もし自分の映画に外国語の字幕がつくことすら許さないジョナス・メカスのような作家がこの話をきいたら真ッ直ぐ気が狂ってしまうのではないかとも思えるのだが、わたしにいわせれば慷慨する映画市民の存在こそが倒立的な国辱ものいがいではないのである。

 インペイを性表現の後進性としてしか捉えられないのなら、それは「先進国」に比較するかぎりでの価値観が発動されているばかりなのであり、官権的暴挙と同一レベルなのではないか。隠すべきものを隠すのは天皇制支配の原理であり、局部インペイ表現とはどこまでもこうしたレベルの問題ではなかったか。
 すでに十数年来、輸入映画の局部露出は検閲下にあり、とりわけポルノ映画(要す
るにそれ以外には見せ場のない映画)などはインペイの間にかろうじて映画があるといった状況だったことは、常識的な事柄ではないか。
 「封建的遺制の残滓」はほとんど変わらずに、綿々と日本映画において息衝いている、というべきである。オマンコの毛が見えるか見えないか(見せるか見せないか)が、これほどにも文化的政治的な問題として重要に残ってくるとは、全く特殊な支配体制ではなかろうか。

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 ここから、見せること=「ポルノ解禁」こそ進歩であるという敗北的な修正主義が発生してくるわけだが、このものの視野が「局部ボカシ」の直接的な影響にぼやけてあることは、説明するまでもないだろう。たぶんこうした論点では(それほど大げさにいうことでもないが)、滝田洋二郎の『痴漢電車・聖子のお尻』が果敢なビ二本的抵抗をやってのけたことが記憶されるべきである。画面に定着されたインモウ(あるいはソリアト、ビ二本的透視)に関しては格別の感想もない。もともとあるべきところにあるものが映っているだけなのだから。

 そのように所謂ピンク映画(性の映像植民地)――低予算、早撮り、特殊配給――の約四半世紀の歴史も危機に置かれている。支配層を憂慮せしむるほどのセックス産業の狂騒的な高度成長という脈絡に置いてみて、このものが大衆的基盤からは遊離してしまったと指摘するまでもない。ジャンル自体の力能をピンクもまた喪失しつつあるのだ。
 かつての若松映画におけるような性と暴力の充満する「内なる第三世界映画」ともいうべき根底的な作品群は『餌食』『十三人連続暴行魔』あたりで最終的に幕を閉じられた。GNP社会の表面から決定的にとりのこされてしまった部分が依拠するものとしての、あまりにも暗鬱な性映画の時代は終った。

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 前述したピンクの有望な新人たちのほとんどはこうした暗さから明確にきれている。多作ぶりと水準において他を技きん出ている滝田の『痴漢電車』シリーズ=ピンク・ミステリにこうした推移は歴然とみてとれる。
 かれの作品から、性映画はとにもかくにも(許容された)性表現ボルテージは保持しつつ、例えばSFにも拡大してゆかざるをえないような予感がしてくることも確かである。とはいえ「性と暴力の貧困映画」という伝統は全くとだえたわけでなく、例えば夢野史郎などの脚本に嫡流をみることができるだろう。夢野は『誘拐密室暴行』『OL拷問・変態地獄』などから続いて、最近、滝田と組んだ『真昼の切り裂き魔』という異様な傑作をおくりだした。
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つづく


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