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『スコセッシはこうして映画をつくってきた』書評 [afterAtBL]

天才めぐる奇跡の人間ドラマ
『スコセッシはこうして映画をつくってきた』書評
M・P・ケリー著=斎藤敦子訳(文芸春秋・3600円)


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 スコセッシはアメリカで最も高名な映画作家ではないが、最も才能ある作家の一人。
 その映画メイキングの秘密を多数の証言をもとに再構成したのが本書だ。映画のなかで育ち、映画によって人生を学んでいったシンデレラ・ボーイの生の側面を活写することを通して描かれたアメリカ映画論でもある。
 わたしがスコセッシの名を知ったのは、やはり『タクシー・ドライバー』だが、そこで監督自身が演じた、妻の不貞を監視するパラノイア男の威嚇的な印象が強烈に残っている。

 映画はその映像ばかりでなく、編集段階でカットされたフィルムや映像の裏に隠されたさまざまな人間ドラマによって、ファンの興味を掻き立ててやまない夢の容器だ。スコセッシ・フィルムの現場報告を多く含む本書は、創造に関わる共同性のなかから一人の作家精神の軌跡を取り出すことに成功している。
 最初のハリウッド進出映画となった『明日に処刑を……』の裏話も面白い。ついでにいうとわたしはスコセッシ映画でこれが一番好きだ。主人公のデビッド・キャラダインが走り出す有蓋貨車にハリツケにされるラスト・シーンの意味が本書を読んで、やっと理解できた。

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 『ミーン・ストリート』で現在のスコセッシ・ファミリーが形成されていく様子を知るのはスリリングな悦びだった。とりわけ圧巻だったのは、作品そのものと同様にダイナミックで残酷でさえある『レイジング・ブル』の製作秘話だ。

 スコセッシは自分が、聖職者とギャングの間で育ったと強調する。この二律背反は一貫してかれの作品の豊かで複雑な基調のみなもとになっている。
 ここでは、最高の人生を自力で送ろうとするのなら他人の助力が必要だ、というジョークが逆説ではなく、常識的に通用している。これは、理解あるスタッフに恵まれた「天才少年」が最高の映画をつくっていく奇跡の物語でもある。


産経新聞1996.9.9朝刊「読書面」


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